
現代の電子機器はスマートフォンから自動車・医療機器・宇宙開発まで、私たちの生活のあらゆる場面でその性能と信頼性が求められています。
微細な電子部品の集合体であるこれら製品が、過酷な環境下でも安定して機能するかを検証する「信頼性試験」は品質保証の要と言えるでしょう。
しかし、この重要な試験において試験対象である電子部品に悪影響を与えず、かつ正確な評価を可能にする液体を選ぶことは容易ではありません。
電気を通さず、不活性で、幅広い温度に対応する特性が求められる中で、ある特定の液体がその理想的な解決策として広く採用されています。
電子部品の信頼性を保証するために不可欠なフッ素系液体の基本的な役割から、
主要な試験での活用法、さらに主要製品の特徴までを専門的かつ分かりやすく解説します。
この記事を通して、フッ素系液体を用いた信頼性試験の重要性と具体的な活用方法を深く理解し、貴社の製品開発や品質管理における最適な試験液選びのヒントを見つけていただければ幸いです。
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沸点: 約101℃
目次
電子部品の「信頼性試験」とは?その目的と重要性

現代のあらゆる産業において電子部品はまさに「心臓部」と言える存在です。
スマートフォンやパソコンはもちろん、自動車の制御システム、医療機器、産業用ロボット、航空宇宙機器に至るまで、その機能停止は社会生活に大きな影響を与え、時には人命に関わる事態を招く可能性もあります。
このような背景から、電子部品が設計通りに、そして期待される期間にわたって安定して機能し続ける能力、すなわち「信頼性」を確保することは製品開発において最も重要な課題の一つです。
信頼性試験の目的
「信頼性試験」とは、電子部品や製品が使用される環境下で故障なく動作し続ける能力(信頼性)を評価するために行われる一連の試験の総称です。
主な目的は以下の通りです。
なぜフッ素系液体が信頼性試験に求められるのか
電子部品の信頼性試験では、温度変化・湿度・振動・衝撃・電圧負荷など、様々な環境ストレスを人工的に再現します。
しかし、非常にデリケートな電子回路や基板に対して、水や通常の有機溶剤を使用すると以下のような問題が生じる可能性があります。
このような問題を避けるため、信頼性試験においては電気を通さず(高い絶縁性)・化学的に安定で・試験対象に悪影響を与えない「不活性」な液体が不可欠となります。
まさにこの点で、フッ素系液体が理想的な選択肢となるのです。
フッ素系液体が信頼性試験に選ばれる理由と基本的な特性

前項で述べたように、電子部品の信頼性試験では試験対象に悪影響を与えずかつ正確な評価(非破壊試験)を可能にする特殊な液体が求められます。
この要求に高次元で応えるのが「フッ素系液体」です。
フッ素系液体とは、分子構造中にフッ素原子(F)を多く含む有機化合物の総称です。
このフッ素原子が持つユニークな特性が、他の一般的な液体にはない優れた性質をフッ素系液体にもたらし、信頼性試験における理想的な媒体として選ばれる理由となっています。
フッ素系液体が選ばれる主な理由
フッ素系液体が電子部品の信頼性試験に不可欠とされる具体的な理由と基本的な特性は以下の通りです。
特定のフッ素系液体は電気をほとんど通しません。これは、電子部品の通電試験中であっても回路の誤動作や短絡(ショート)を引き起こす心配がないことを意味します。高電圧が印加される耐電圧試験などでは、この高い絶縁性が特に重要となります。
多くのフッ素系液体は非常に安定した化学構造を持っています。そのため、一般的な金属、プラスチック、ゴムなどの電子部品材料や試験対象物を腐食させたり、変質させたりする心配がありません。
フッ素系液体は表面張力が低く、非常に高い蒸気圧を持つため、部品内部にも入り込みやすく、試験後には部品表面から速やかに蒸発します。不揮発性の残留物がほとんど残らないため、試験後の洗浄工程が不要、または極めて簡略化できます。これは製造プロセスの効率化とコスト削減に大きく貢献します。
引火点を持たず、火災のリスクを低減し試験環境の安全性を高めます。また、多くのフッ素系液体は低毒性であり作業者への影響も少ないとされています。
非常に低い温度でも凝固せず、かつ高い温度でも気化しにくい(液体のままでいられる)特性を持つフッ素系液体が多く存在します。これにより、極低温から高温まで幅広い温度域で行われるサーマルショック試験や温度サイクル試験において、安定した熱媒体として利用することが可能です。
これらの特性により、フッ素系液体は電子部品のデリケートな信頼性試験において、他に類を見ない優れた性能を発揮し、その正確性と安全性を支える基盤となっています。
フッ素系液体が活躍する主要な信頼性試験

前項で解説したフッ素系液体の優れた特性は、電子部品の多岐にわたる信頼性試験においてその真価を発揮します。
ここでは、特に代表的な3つの試験についてフッ素系液体がどのように貢献しているのかを詳しく見ていきましょう。
🫧グロスリーク試験(気密性試験、粗大リーク試験)
試験の目的と概要グロスリーク試験は、IC(集積回路)パッケージやMEMS(微小電気機械システム)デバイスなどの密閉型電子部品において、その密閉性が保たれているか、すなわち外部からの水分や不純物の侵入を防ぐ「気密性」が十分であるかを評価する試験です。パッケージに微細な亀裂や穴(リーク)があると、内部に湿気や汚染物質が侵入し、故障の原因となります。この試験では、比較的大きなリーク(粗大リーク)を検出することを目的とします。
フッ素系液体の役割と原理この試験では、まず試験対象の電子部品をフッ素系液体に浸し、加圧槽内で加圧します。リークがある部品の場合、加圧によってフッ素系液体がそのリーク箇所から内部に浸入します。次に、部品を取り出して温かいフッ素系液体(検出液)に浸すと、部品内部に入り込んだフッ素系液体が加熱されて膨張・気化し、リーク箇所から泡となって出てきます。この泡を目視で確認することで、リークの有無を判定します。フッ素系液体が使われるのは、以下の特性があるためです。
- 低い表面張力: 微細なリークにも浸入しやすく、検出感度が高まります。
- 非腐食性: デリケートな電子部品に悪影響を与えません。
- 高い不活性・速やかな蒸発: 試験後も部品を汚染せず、残留物の心配がありません。
⚡耐電圧試験(絶縁破壊試験、部分放電試験、DC試験)
試験の目的と概要耐電圧試験は、電子部品やその絶縁材料が、規定された電圧を一定時間印加されても絶縁性能を維持できるか、つまり電気的に破壊されないかを評価する試験です。電源回路や高電圧が印加される部品では、絶縁不良が発火や感電事故に直結するため、この試験は製品の安全性確保に極めて重要です。
フッ素系液体の役割と原理試験対象の電子部品は、フッ素系液体の中に完全に浸された状態で高電圧が印加されます。フッ素系液体が絶縁媒体として機能することで、試験電圧が部品の特定の箇所に集中し、意図しない場所での放電や絶縁破壊を防ぎます。この試験でフッ素系液体が選ばれる理由は、その極めて高い電気絶縁性にあります。空気中では容易に放電してしまうような高電圧であっても、フッ素系液体の中では安定して試験を行うことが可能です。これにより、電子部品本来の絶縁耐力を正確に評価できます。
🌡️サーマルショック試験(ヒートショック試験、熱衝撃試験、環境試験)
試験の目的と概要サーマルショック試験は、電子部品が極端な温度変化にさらされた際の耐久性を評価する試験です。高温と低温の環境に部品を繰り返し短時間で投入することで、急激な温度変化が部品の材料(半田、樹脂、金属など)に与えるストレスを再現し、クラック(ひび割れ)、剥離、接合不良といった不具合の発生リスクを評価します。自動車のECU(エンジンコントロールユニット)や航空機部品など、温度変化の激しい環境で使用される製品には必須の試験です。
フッ素系液体の役割と原理この試験では、通常、高温槽と低温槽が備えられた専用装置が用いられます。試験対象の部品は、フッ素系液体を満たした高温槽と低温槽の間を短時間で移動させられ、液体中で急激な温度変化にさらされます。フッ素系液体は、以下の特性により、この試験に最適な熱媒体となります。
- 広い液相範囲: 液体窒素のように非常に低い温度(-100℃以下)から、有機溶剤のように比較的高温(+100℃以上)まで、液体の状態を保つことができる製品が多く存在します。これにより、広範囲な温度サイクルを液体中で実施できます。
- 高い熱安定性: 高温・低温にさらされても化学的に分解しにくく、安定した性能を維持します。
- 優れた熱伝達性: 液体中で直接加熱・冷却を行うことで、空気中よりも効率的かつ均一に部品の温度を変化させ、試験時間を短縮し、再現性を高めます。
- 電気絶縁性・不活性: 温度変化によるストレス評価中に、電気的な影響や化学的な反応で部品が損傷する心配がありません。
これらの試験において、フッ素系液体はその独自の特性により電子部品の「見えない故障」を浮き彫りにし、製品の信頼性向上に不可欠な役割を担っているのです。
信頼性試験に用いられる主要フッ素系液体とその特徴

ここまで、フッ素系液体がなぜ信頼性試験に不可欠なのか、そして具体的にどのような試験で活躍するのかを見てきました。
ここでは、実際に多くの現場で用いられている代表的なフッ素系液体について、それぞれの特徴と現状を解説します。
3M™ フロリナート™ シリーズ
概要と主な特徴3M™ フロリナート™ は、パーフルオロカーボン(PFC)を主成分とするフッ素系液体の中でも特に長い歴史を持つ製品です。極めて高い化学的・熱的安定性が最大の特徴です。
- 優れた熱・化学的安定性: 熱や酸化に対して極めて高い安定性を誇り、高温下での長期使用でも変質しにくい特性を持ちます。これにより、長期間の使用や様々な材料との接触においても安心して利用できます。
- 高い電気絶縁性: 優れた電気絶縁性を有するため、部品に影響を与えず、通電状態での各種試験も可能です。
- 高い信頼性: 長年の実績と信頼性があり、多くの国際規格で指定される基準液としても使われてきました。
Solvay Galden® (ガルデン®) シリーズ
概要と主な特徴Solvay Galden® はパーフルオロポリエーテル(PFPE)を主成分とするフッ素系液体です。その高い性能と安定性から様々なハイテク産業で利用され、フロリナート™と双璧をなす存在です。
- 優れた熱・化学的安定性: 熱や酸化に対して極めて高い安定性を誇り、高温下での長期使用でも変質しにくい特性を持ちます。これにより、長期間の使用や様々な材料との接触においても安心して利用できます。
- 広い液相範囲: 幅広い温度範囲で液体の状態を保つことができ、温度制御や熱媒体として非常に優れています。
- 高い電気絶縁性: 優れた電気絶縁性を有するため、部品に影響を与えず、通電状態での各種試験も可能です。
3M™ Novec™ シリーズ
概要と主な特徴3M™ Novec™ は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)を主成分とするフッ素系液体です。フロリナート™やGalden®といった従来のPFCやPFPE系フッ素系液体の「地球温暖化係数の高さ」という弱点を改良し、環境に優しいフッ素系液体として開発されました。
- 優れた安全性と環境適合性: GWP(地球温暖化係数)が低く、環境への影響がより考慮されています。
- 低表面張力: 細かい隙間にも浸透しやすく、精密洗浄やリークテストで効果を発揮します。
- 速やかな乾燥性: 不揮発性残留物が少なく、試験後の乾燥時間を短縮できます。
代替品・互換品のご紹介:終売・供給難への解決策

3M™ フロリナート™ シリーズやNovec™ シリーズの生産終了、そしてSolvay社 ガルデン® の需要ひっ迫は信頼性試験をおこなう多くの企業様にとって大変重要な課題となっているかと存じます。
弊社ではこれらの状況に対応するため、既存製品と高い互換性を持つ代替品・互換品を幅広くご用意しております。
お客様の用途に合わせた最適な製品をご提案できるよう、各製品の特性を熟知した技術スタッフが丁寧にお手伝いいたします。
代替品・互換品を以下の表にまとめます。
3M™ Novec™ シリーズ 代替品
| 製品名 | HFE-7100 | HFE-7200 | HFE-7300 |
|---|---|---|---|
| 対応関係 | Novec7100代替品 | Novec7200代替品 | Novec7300代替品 |
| 主成分 | HFE | HFE | HFE |
| 引火点 | なし | なし | なし |
| 沸点 | 59℃ | 76℃ | 101℃ |
| 比重 | 1.51 | 1.43 | 1.66 |
| 動粘度 | 0.51 cSt | 0.51 cSt | 0.70 cSt |
| 製品ページ | 詳細・購入はこちら | 詳細・購入はこちら | 詳細・購入はこちら |
3M™ フロリナート™ / Solvay Galden® 代替品・互換品
| 製品名 | PF-55 (仮) | PF-135 | PF-170 |
|---|---|---|---|
| 対応関係 | フロリナート FC-72代替品 ガルデン HT-55互換品 |
フロリナート FC-3283代替品 ガルデン HT-135互換品 |
フロリナート FC-40代替品 ガルデン HT-170互換品 |
| 主成分 | PFPE | PFPE | PFPE |
| 引火点 | なし | なし | なし |
| 沸点 | 約55℃ | 約135℃ | 約170℃ |
| 比重 | 1.65 | 1.72 | 1.77 |
| 動粘度 | 0.45 cSt | 1.00 cSt | 1.71 cSt |
| 製品ページ | 準備中 | 詳細・購入はこちら | 詳細・購入はこちら |
まとめ:信頼性試験を支えるフッ素系液体と確かな代替品
本記事では電子部品や精密機器の性能を確かめる「信頼性試験」において、その要となるフッ素系液体の重要性について詳しくご紹介いたしました。
温度変化試験や液浸による評価など、デリケートな試験環境を安定して実現するためにフッ素系液体は欠かせない存在です。
しかしながら、その信頼性試験で最も広く用いられていた3M™ フロリナート™ シリーズの生産終了。
またSolvay社 ガルデン® の需要ひっ迫による供給課題は、信頼性試験を行う多くの企業様にとって、重大な懸念事項となっているかと存じます。
そこで弊社では、お客様が安心して信頼性試験を継続できるよう、既存のフッ素系液体と高い互換性を持つ代替品・互換品を幅広くご用意しております。
| 製品名 | HFE-7100 | HFE-7200 | HFE-7300 |
|---|---|---|---|
| 対応関係 | Novec7100代替品 | Novec7200代替品 | Novec7300代替品 |
| 主成分 | HFE | HFE | HFE |
| 引火点 | なし | なし | なし |
| 沸点 | 59℃ | 76℃ | 101℃ |
| 比重 | 1.51 | 1.43 | 1.66 |
| 動粘度 | 0.51 cSt | 0.51 cSt | 0.70 cSt |
| 製品ページ | 詳細・購入はこちら | 詳細・購入はこちら | 詳細・購入はこちら |
| 製品名 | PF-55 (仮) | PF-135 | PF-170 |
|---|---|---|---|
| 対応関係 | フロリナート FC-72代替品 ガルデン HT-55互換品 |
フロリナート FC-3283代替品 ガルデン HT-135互換品 |
フロリナート FC-40代替品 ガルデン HT-170互換品 |
| 主成分 | PFPE | PFPE | PFPE |
| 引火点 | なし | なし | なし |
| 沸点 | 約55℃ | 約135℃ | 約170℃ |
| 比重 | 1.65 | 1.72 | 1.77 |
| 動粘度 | 0.45 cSt | 1.00 cSt | 1.71 cSt |
| 製品ページ | 準備中 | 詳細・購入はこちら | 詳細・購入はこちら |
これらの製品は、従来の試験プロセスや設備への影響を最小限に抑えつつ、同様の性能と安定性を提供できるよう厳選いたしました。
信頼性試験の安定維持は、製品の品質と信頼性を保証する上で極めて重要です。
フッ素系液体の切り替えをご検討の際は、専門知識を持つ弊社技術スタッフが、お客様の具体的な試験条件や設備に合わせた最適な製品をご提案させていただきます。どうぞお気軽にご相談ください。
本記事がお客様にとって最適な試験液選択の一助となれば幸いです。
製品に関する詳細情報、ご質問、お見積りのご依頼等はお気軽に当オンラインストアまでお問い合わせください。
本日もご覧いただき、誠にありがとうございました!
ご採用の前に必ずご確認ください 本製品をご採用いただく前には、必ずお客様の責任において実際の使用条件(装置、プロセス、温度など)での適合性評価を実施してください。特に、性能・安全性・各種部材との適合性(金属腐食、樹脂・ゴムへの影響など)に問題がないことを十分にご確認いただけますよう、お願い申し上げます。



