
医薬品合成、半導体エッチング、宇宙開発における材料試験など現代の最先端技術開発において「超低温環境」は不可欠な要素です。
しかし、-80℃、-100℃、さらには-120℃といった極低温を安定的に、そして安全に作り出すことは一般の冷凍機では容易ではありません。
そこで重要となるのが、目的に合わせた液体冷媒(ブライン/寒剤)の適切な選び方です。
0℃から-196℃までの幅広い温度域で用いられる主要な液体冷媒の特徴と、
液体冷媒(ブライン/寒剤)の適切な選び方について詳しく解説します。
制御したい温度帯と液体冷媒の組み合わせを化学的な視点も交えてご説明します。
特に引火性や毒性のリスクを排除しつつ-100℃以下の精密な温度制御を実現したい場合に、なぜフッ素化液体であるHFE(ハイドロフルオロエーテル)やPFPE(パーフルオロポリエーテル)が最適な選択肢となるのか、その理由と具体的な活用例に迫ります。
2025年生産終了予定、Novec™7200の代替品
主成分: エチルノナフルオロイソブチルエーテル
引火点: なし
沸点: 約76℃
凝固点/流動点: 約-138℃
供給量の限られているガルデン® HT-135の互換品に!
アサヒクリンAC-6000の代替にもご検討いただけます。
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約135℃
凝固点/流動点: 約-100℃
目次
目的温度と安全性で選ぶ液体冷媒:基礎から超低温まで

液体冷媒はその化学的特性や相転移点(凝固点、流動点、沸点)によって、適用可能な温度域が大きく異なります。
ここでは代表的な冷媒の特性を、到達温度が低い順に比較検討します。
0℃ ~ -50℃:水・塩化カルシウム水溶液など(ブライン)

最も一般的で安全、安価な冷媒です。
この温度域の冷媒として水やその水溶液、通称「ブライン」が広く用いられます。
水は0℃までの冷却に最も安価で安全な選択肢であり、食品工場での冷却や空調設備など日常生活に近い多くの場所で利用されています。
一方、塩化カルシウム(CaCl₂)やエチレングリコール、プロピレングリコールといった塩や有機物を水に溶かしたブライン溶液は、水の凝固点降下を利用してより低い温度でも液体の状態を維持できます。
これにより、製氷や冷蔵倉庫、プロセス冷却など0℃以下の温度が求められる幅広い産業分野で活躍しています。
- 非毒性
- 不燃性
- 低コスト
- 取り扱いが容易
- 到達温度に限界がある
- 塩類は金属腐食のリスクがある
~ -80℃:ドライアイスと有機溶剤(寒剤)

固体の二酸化炭素であるドライアイス(昇華点:-78.5℃)は単独でも強力な冷却源となりますが、エタノールやアセトン、イソプロピルアルコールといった有機溶剤と混合することで均一な低温環境(寒剤浴、またはスラッシュバス)を安定的に作ることができます。
この方法は、研究室での化学反応の冷却、特定の試料の凍結、あるいは物理実験など中低温域でのバッチ処理や一時的な冷却が必要な場面で頻繁に用いられます。
有機溶剤の種類によって到達温度や安全性に違いがあり、使用する際は溶剤の特性を理解することが重要です。
・ドライアイス + エタノール: 約-72℃(エタノールの凝固点:-114℃)
・ドライアイス + アセトン: 約-78℃(アセトンの凝固点:-95℃)
- 比較的安価に中低温域を実現可能
- 引火性・爆発性(火気厳禁、蒸気滞留で爆発リスク)
- 毒性・刺激性(換気・保護具が必須)
- 取り扱いの手間(ドライアイス継ぎ足し、突沸・飛散リスク)
~ -130℃:フッ素系機能性液体(HFE / PFPE)

この温度域は通常の有機溶剤の多くが凍結し始めるため、特殊な液体が求められます。
その代表格がHFE(ハイドロフルオロエーテル)やPFPE(パーフルオロポリエーテル)です。
これらは、半導体製造プロセスの温度制御、医薬品やファインケミカルの合成反応冷却、あるいは高性能電子機器の信頼性試験など、高い安全性と精密な温度管理が求められる最先端の産業分野で熱媒体(ブライン)として幅広く採用されています。
電気絶縁性が高く、水と混ざらないため、複雑な電子部品の直接冷却にも利用可能です。
- -100℃以下の超低温も安定制御
- 非常に高い化学的安定性
- 引火点がなく、不燃性
- 毒性も極めて低い
- 優れた電気絶縁性
- 導入コストは最も高価
2025年生産終了予定、Novec™7200の代替品
主成分: エチルノナフルオロイソブチルエーテル
引火点: なし
沸点: 約76℃
凝固点/流動点: 約-138℃
供給量の限られているガルデン® HT-135の互換品に!
アサヒクリンAC-6000の代替にもご検討いただけます。
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約135℃
凝固点/流動点: 約-100℃
~ -196℃:極低温液体(液体窒素)

液体窒素は沸点が-196℃と極めて低く、非常に強力な冷却能力を持つ冷媒です。
この温度ではほとんどの化学反応が停止し、物質の物理的・化学的特性が大きく変化するため、様々な分野で重要な役割を果たします。
主な用途としては、
・生物・医療分野: 細胞、組織、DNA、血液などの長期凍結保存(バイオバンク、人工授精、ES細胞研究など)
・超電導関連: 超電導材料の冷却(MRI装置、超電導モーターなど)
・食品分野: 食材の急速凍結(品質保持、細胞破壊の抑制)
・物理・化学研究: 極低温環境下での物質の挙動研究、冷却トラップ
・工業分野: 金属の焼入れ、タイヤ再生、ゴム・プラスチックの粉砕など
液体窒素はその圧倒的な冷却能力と不活性ガスであることから、多くの極低温用途で不可欠な存在ですが、取り扱いには専門知識と厳重な安全管理が求められます。
- 圧倒的な冷却能力で極低温を達成
- 熱媒体としての使用は基本的に難しい(常時沸騰)
- 酸欠・凍傷リスク(換気・保護具・安全手順が必須)
- 専用の貯蔵容器(デュワー瓶)や安全設備が必要
まとめ:目的に応じた最適な冷媒の選択を
本記事では低温域で用いられる主要な冷媒とその適用温度帯、メリット・デメリットについて解説しました。
適用温度帯 | 冷媒の種類 | 主な特徴 |
---|---|---|
0℃ ~ -50℃ | 水、CaCl₂水溶液など | コストパフォーマンスと安全性に優れる。汎用性が高い。 |
~ -80℃ | ドライアイス+有機溶剤 | 比較的安価に中低温域を実現。ただし、引火性・毒性・取り扱いの手間を考慮。 |
~ -130℃ | フッ素機能性液体 | 安全かつ精密な温度制御が可能。高価だが、その安全性と安定性から多くの最先端分野で採用。 |
~ -196℃ | 液体窒素 | 圧倒的な冷却能力。熱媒体としての使用は限定的で厳重な安全管理が必須。 |
各冷媒にはそれぞれ特有の特性と利点・課題があり、実現したい温度域・安全性・コスト・安定性など、プロジェクトの要件に応じて最適な選択が異なります。
特に、超低温領域での精密な温度管理や安全性確保が求められる場合はフッ素機能性液体のような専門的な冷媒の導入が不可欠となるでしょう。
本記事がお客様にとって最適な冷媒選択の一助となれば幸いです。
製品に関する詳細情報、ご質問、お見積りのご依頼等はお気軽に当オンラインストアまでお問い合わせください。
本日もご覧いただき、誠にありがとうございました!