
私たちの生活を支えるエレクトロニクス産業。
その心臓部ではPFC(パーフルオロカーボン)というフッ素系の液体が、目に見えないところで重要な役割を果たしています。
半導体製造装置の精密な温度管理、電子部品の過酷な品質試験、そしてスーパーコンピューターのCPUを直接冷やす冷却液として、PFCは不可欠な存在です。
その代表的な製品が、3M™社のフロリナート™シリーズです。
3M™フロリナート™シリーズに代表される
フッ素系不活性液体「PFC(パーフルオロカーボン)」について詳しく解説します。
しかし今、このPFCは大きな岐路に立たされています。
オゾン層を破壊しない一方で、地球温暖化への影響(GWPが大きい)という環境面の課題。
そして、その頼りになるフロリナート™が2025年末で生産終了となることが発表され、多くの産業で代替品への移行が急務となっているのです。
ここからは、高い信頼性で産業を支える一方、大きな転換期を迎えている完全フッ素系液体「フロリナート™(PFC)」について、構造から特徴、用途まで詳しく解説します。
2025年生産終了予定、フロリナート™ FC-3283の代替に!
アサヒクリンAC-6000の代替にもご検討いただけます。
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約135℃
2025年生産終了予定、フロリナート™ FC-40の代替に!
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約170℃
目次
フロリナート™(PFC)ってなに?:特徴とメリットを解説!
フロリナート™(PFC)の構造
フロリナート™の優れた特性を理解する鍵は、その主成分であるPFC(パーフルオロカーボン)の化学構造にあります。

PFC(Per Fluoro Carbon)とは、炭素原子(C)の手が完全にフッ素原子(F)で満たされている有機フッ素化合物の一種です。
中には窒素(N)や酸素(O)が間に入っている場合もあります。

炭素(carbon)の手、すべてに(per)フッ素(fluoro)がくっついているね!
この分子構造の最大のポイントは、炭素とフッ素の結合(C-F結合)が、有機化学の中で最も強い結合の一つであることです。
この強力な結合エネルギーに加え、原子の中でも特に大きいフッ素原子が炭素の骨格を隙間なくガードしています。
この「フッ素の盾(シールド)」が外部からの化学的な攻撃を一切受け付けません。
この極めて堅牢で安定した化学構造こそが、フロリナート™が持つ以下の驚くべき特性の源泉となっているのです。
PFC(パーフルオロカーボン)の特徴
フロリナート™(PFC)は、そのユニークな化学構造から、他の溶剤にはない数多くの優れた特徴を備えています。
ここでは、その特性を「環境」「安全」「物理・化学」「法規制」の4つの側面から詳しく見ていきましょう。
環境特性
- オゾン層破壊係数(ODP)がゼロ
- 【注意点】非常に高い地球温暖化係数(GWP)
化学的に極めて安定なため大気中で分解されにくく、GWPが非常に高いことが最大の課題です。
安全性
- 引火点なし
引火点がないため、火災リスクを大幅に低減でき、防爆設備が不要になるなど安全な作業環境の構築に貢献します。 - 極めて低い毒性
人体への影響が非常に少なく、許容濃度も高いため、有機溶剤中毒予防規則(有機則)にも該当せず、作業者の健康リスクを最小限に抑えられます。
物理的・化学的特性
- 極めて高い化学的安定性・材料適合性
薬品や金属、樹脂など、ほとんどの素材に影響を与えないため、装置や部品の材質を気にせず使用できます。 - 極めて高い電気絶縁性
液体の中でも極めて高い電気絶縁性を有するため、通電状態のサーバー等を直接冷却する「液浸冷却」や半導体装置における温調装置の冷媒にも最適です。 - 優れた熱伝導性と熱安定性
熱を効率的に輸送する能力に優れ、高温での安定性も高いため、半導体製造装置の精密な温度管理を行う熱媒体として活躍します。 - 低い表面張力・粘度
サラサラで濡れ性が高く、複雑な形状や微細な隙間にも深く浸透。
サーマルショック試験やリークテストで高い性能を発揮します。 - 優れた乾燥性
沸点に対して蒸発に必要な熱量が小さく乾燥が非常に速いため、作業時間の短縮やシミの発生抑制に繋がります。
国内外の法規制
- 国内法規制:
PRTR法、有機則、消防法(危険物)など、多くの国内法規制に非該当のため、設備や管理の負担を軽減できます。 - 地球温暖化対策:
GWPが非常に高いことから、地球温暖化対策推進法で排出削減が求められる「代替フロン等4ガス」の一つに指定されています。 - 欧州の動向(REACH規則):
直近、欧州の化学物質規制であるREACHにおいてフロリナート™FC-3283の主成分「パーフルアミン(CAS:338-83-0)」がSVHC(高懸念物質)に追加されました。今後、世界的に規制が強化される可能性があるため、最新の動向に注意が必要です。
フロリナート™(PFC)の主な用途

フロリナート™(PFC)は、その卓越した性能から、特に高い信頼性や安全性が求められる最先端の分野で活躍しています。
1. 冷媒・熱輸送媒体(ブライン)
PFCの最も代表的な用途です。極めて高い化学的安定性と広い温度範囲で液体を保つ性能を活かし、精密な温度管理が求められる過酷な環境で熱を効率的に輸送します。
- 半導体製造装置(エッチャー、CVD、テスター)のチラー循環液
- データセンターのサーバーやCPU、パワー半導体の液浸冷却
- 医薬品・化学プラントの反応熱の除去
- 航空宇宙・防衛分野における電子機器の冷却
2. 信頼性試験
電気を通さず、試験対象物への影響が非常に低いため、電子部品の信頼性を評価する様々な試験に理想的な液体です。
- 電子部品の気密性を調べるリークテスト(グロスリーク試験)
- 高温と低温の液体に交互に浸す熱衝撃試験(サーマルショック試験)
- 通電したまま行うバーンイン試験
3. 溶剤・希釈剤
フッ素系の物質への良好な溶解性と多くの素材への低影響性が両立されており、不活性であるため様々な化合物の溶媒や希釈剤として利用されます。
- フッ素オイルやフッ素グリースの希釈
- フッ素ポリマー溶解・分散媒
- フッ素系コーティング剤の溶剤
- 反応性が高い化学合成プロセスにおける不活性な反応媒体
3M™ フロリナート™シリーズ主要製品とその動向
PFC(パーフルオロカーボン)には様々な種類がありますが、その中でも3M™社の「フロリナート™」は、長年にわたり市場を代表する製品群として高い信頼を得てきました。
大きな転換点となったのが、2022年末の3M™社による発表です。
同社はPFAS(有機フッ素化合物)全体の将来性や規制動向を鑑み、フロリナート™を含む全てのフッ素化学品事業から撤退し、2025年末をもって生産を終了するという決断を下しました。
この決定は、その後の世界的な規制強化の流れを先取りする形となりました。
実際にこの発表の後、欧州のREACH規則ではフロリナート™FC-3283の主成分がSVHC(高懸念物質)に追加されるなど、PFCに対する規制は今もなお世界中で厳しさを増しています。
こうした状況から、フロリナート™のユーザーにとっては、単なるメーカー変更ではなく今後の規制動向も見据えた上での代替品選定が事業継続のための喫緊の課題となっています。
以下に、代表的なフロリナート™製品と、その性能に準拠した弊社代替製品の比較をご紹介します。
フロリナート™ シリーズ | 主成分 (代表的な化学物質) |
沸点 | 比重 (25℃) |
弊社代替製品 (PFPE) |
---|---|---|---|---|
Fluorinert™ FC-3283 | パーフルオロトリプロピルアミン | 128℃ | 1.83 | PF-135 |
Fluorinert™ FC-40 | パーフルオロトリブチルアミン | 165℃ | 1.87 | PF-170 |
ご採用の前に必ずご確認ください 本製品をご採用いただく前には、必ずお客様の責任において実際の使用条件(装置、プロセス、温度など)での適合性評価を実施してください。特に、性能・安全性・各種部材との適合性(金属腐食、樹脂・ゴムへの影響など)に問題がないことを十分にご確認いただきますよう、お願い申し上げます。
フロリナート™代替製品と弊社の強み:PFシリーズ

代替品の選択:PFCから、より持続可能なPFPEへ
3M™社のフロリナート™(PFC)生産終了を受け、同じPFCの別メーカー品を代替品として検討されるのは、ごく自然な流れかと思います。
しかし、そこには一度立ち止まって考えておきたい大切な視点があります。
それは、PFCという物質群そのものが、世界的に規制強化の流れの中にあるという点です。
フロリナート™FC-3283の主成分がREACH規則SVHC(高懸念物質)に指定されたように、今後、他のPFCも同様の規制対象となる可能性は否定できません。
PFCは優れた性能を持つ液体ですが、その一方でこうした規制の動向を考慮すると、将来的な供給の安定性については不確実な側面も出てまいります。
そこで私たちはお客様の事業の安定継続を最優先に考え、現時点でこうした規制の懸念がない「PFPE(パーフルオロポリエーテル)」を主成分とした代替品を一つの有力な選択肢としてご提案しております。
2025年生産終了予定、フロリナート™ FC-3283の代替に!
アサヒクリンAC-6000の代替にもご検討いただけます。
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約135℃
2025年生産終了予定、フロリナート™ FC-40の代替に!
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約170℃
弊社フロリナート™代替製品の強み
こうした考えのもとに開発された弊社のフロリナート™代替品「PFシリーズ」には、お客様に安心してご選定いただける、3つの具体的な強みがあります。
品質へのこだわり
厳格な品質管理体制のもと、安定した品質の製品をお届けします。ここで重要なのは、「高純度=高品質」とは限らないという点です。弊社はメーカーとしての知見と高い技術力・分析能力を駆使し、お客様の用途に影響を及ぼし得る微量不純物まで考慮した、真に「高品質」な製品づくりにこだわっています。
安定供給と少量からの提供
国内外のネットワークを活かし、お客様の必要量に応じた安定供給体制を整えています。少量からのご注文にも対応可能ですので、研究開発段階でのご使用や小規模な生産ラインにも最適です。
充実した技術サポート
お客様の具体的な用途や課題を丁寧にヒアリングし、最適な製品選定から使用方法のご提案、トラブルシューティングに至るまで、ご採用後もきめ細やかな技術サポートを提供いたします。
PFCからHFEへ:環境にやさしい次世代のフッ素系液体

これまで、高い性能が求められるフロリナート™(PFC)の代替品として、同じく高性能なPFPE製品をご紹介してきました。
しかし、用途によっては、別の選択肢も存在します。
それが、「HFE(ハイドロフルオロエーテル)」への置き換えです。
HFEとは、3M™社のNovec™シリーズで広く知られるようになった、PFCの環境性能、特にGWP(地球温暖化係数)を大幅に低減することを目的に開発されたフッ素系液体です。
どのような用途でHFEへの置き換えが可能か?
ただし全てのPFC用途をHFEでカバーできるわけではありません。
PFCが持つ極めて高いレベルの熱的・化学的安定性が必要な、過酷な条件下での熱媒体や信頼性試験などには、引き続きPFCやPFPEが適しています。
一方で、以下のような用途ではPFCからHFEへの置き換えが有効な選択肢となります。
- 精密洗浄・リンス用途
- 穏やかな温度条件下での熱媒体
- 各種コーティング剤の溶剤・希釈剤
これらの用途では、HFEが持つ適度な溶解性や低いGWPといったメリットがPFCを上回る価値を提供する場合があります。
まとめ:フロリナート™代替は、事業の未来を守る選択
本記事では、フッ素系不活性液体フロリナート™(PFC)の優れた特性と、それが支えてきた最先端技術、そして3M™社の生産終了という市場の大きな転換点について詳しくご紹介しました。
PFCは、その卓越した安定性から、半導体製造の熱媒体や電子部品の信頼性試験など、高い性能が求められる場面で不可欠な存在でした。
しかし、環境・規制動向の変化により、私たちは今、その代替品選定という重要な岐路に立たされています。
この変化は、単なる「製品の置き換え」という課題ではありません。
将来の規制リスクから事業を守り、より持続可能な生産体制へと進化させるための重要な転換点であると私たちは考えています。
貴社のニーズに、PFPEとHFEの最適なソリューションを
弊社では、この大きな変化に対応するため、2つの代替ソリューションをご用意しております。
-
1フロリナート™の直接代替として:PFPE「PFシリーズ」
フロリナート™が持つ高い性能を維持しつつ、現時点でREACH規則SVHC(高懸念物質)等の規制の懸念がないソリューションです。
熱媒体や信頼性試験などでのご使用に最適です。 -
2環境負荷低減を優先する用途に:HFE「HFE-7000シリーズ」
GWP(地球温暖化係数)を大幅に低減した、環境配慮型の選択肢です。精密洗浄や穏やかな温度条件下での熱媒体など、用途に応じて最適な製品をご提案します。
このようなお悩みはありませんか?
- フロリナート™(FC-40, FC-3283など)の生産終了で、信頼できる代替品を探している。
- 今後の化学物質規制(REACH/SVHCなど)を見据え、将来性のある代替品に切り替えたい。
- 電子部品の熱衝撃試験やリークテストの品質を維持・向上させたい。
- PFCからの移行について、専門的な技術サポートを受けながら進めたい。
弊社はお客様一人ひとりが直面する課題を丁寧に伺い、PFPEとHFE、両方の選択肢の中から、豊富な製品知識と技術力をもって最適な一滴をご提案いたします。
製品に関する詳細情報、ご質問、お見積りのご依頼等はお気軽に当オンラインストアまでお問い合わせください。
本日もご覧いただき、誠にありがとうございました!