
アルツハイマー病に関わる 微量成分を測る。
がん関連の 遺伝子発現を調べる。
そして、有用な物質を作る 微生物を探す。
実は、こうした体外診断薬・検査デバイスの開発や微生物スクリーニングの現場でもフッ素系液体が使われています。
マイクロ流路を使う検出・培養技術では、水系の液滴を取り囲む連続相(オイル相)や、微小ウェル内の反応液を区切る封止液として小さな反応・培養区画を保ちます。
さらに、好気性微生物の培養では油に溶けた酸素を培地へ届ける役割も担います。
しかしご存知のように3M社は2025年末をもってフロリナート™ / Novec™の生産を終了してしまいました。
マイクロ流路のフッ素系オイルが診断薬開発・微生物研究を支える仕組みを解説!
この分野でよく使われていたフロリナート™ FC-40/FC-43の代替品もご紹介します。
フッ素系液体の役割を知ると、液の物性と、検出・培養技術とのつながりが見えてきます。
現在お使いの液に求められる特性を考えるうえでも、役立つ視点です。
弊社のフロリナート™代替品には、本分野で複数の採用実績があります。
本記事がフッ素系液体の活用を知るきっかけと、代替液選びの参考になれば幸いです。
2025年生産終了、フロリナート™ FC-40の代替に!
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約170℃
マイクロ流路のオイル相とは?小さな「反応の場」を支える液体

微量な成分を測るときも、目的の微生物を探すときも、試料を多数の小さな区画に分ける方法が使われています。
DNAと試薬を入れて反応させる。微生物と培地を入れて培養する。
区画ごとに結果を読み取ることで、「どこで反応したか」「どの区画で微生物が増えたか」を調べられます。
マイクロ流路などを用いるこうした技術では、水と混ざりにくい油が小さな反応・培養区画を作り、保つ役割を担います。
代表的なのが次の二つの使い方です。
液滴を取り囲み、運ぶ「連続相」
マイクロ流路で水系の試料を小さな液滴に分け、その周囲を油で満たします。
油の中に水滴が分散する、W/O型(油中水滴型)と呼ばれる構造です。
このとき、液滴の周囲に連続して存在する油が「連続相(オイル相)」です。
液滴を流路内で運ぶため、キャリアオイルとも呼ばれます。
一つひとつの液滴が、いわば小さな試験管。
その中で反応や培養を進め、蛍光などを目印に結果を読み取ります。
微小ウェルの反応液を区切る「封止液」
液滴を流す方式とは別に、基板上に並んだ小さなくぼみ「微小ウェル」を使う方式もあります。
ウェルへ試料や反応液を入れた後、上部を油で覆い、各ウェルの水系反応液を区切ります。
この油が「封止液(シーリングオイル)」です。
液滴を取り囲む油と、ウェルを封じる油。
使い方は異なりますが、どちらも水系試料を小さな区画に分けて扱うために使われています。
では、水と混ざらない油の中でも、なぜフッ素系液体が選ばれるのでしょうか?
その理由は、区画を作ることに加え、試料の保持や微生物への酸素供給にも関わる性質にあります。
マイクロ流路のオイル相にフッ素系液体が選ばれる3つの理由

マイクロ流路で使う油には区画を作るだけでなく、その中で反応や培養を進め、結果を読み取れることが求められます。
フッ素系液体は使い方に応じて次のような特性を活用できます。
| 選ばれる理由 | 検出・培養での役割 |
|---|---|
| 試料や反応生成物を保持しやすい | 測定したい成分を、水系の区画内に保つ |
| 適した界面活性剤と組み合わせられる | 液滴同士の合一を抑え、反応・培養の場を保つ |
| 酸素を溶かし込みやすい | 好気性微生物の培養で、酸素の供給媒体になる |
① 測定したい成分を水系の区画に保ちやすい
区画ごとの反応を調べるには「測りたい成分がその区画にとどまること」が大切です。
とくにパーフルオロ系の液体は水に加えて、多くの非フッ素系有機物も溶かしにくい性質を持ちます。
この性質は試料や蛍光生成物などを水系の区画に保持するうえで役立ちます。
たとえば、反応で生じた蛍光物質が隣の液滴へ移ると、どの液滴で反応が起きたのか判断しにくくなります。
液滴の形だけでなく、中身と測定結果の対応を保つことも、オイル相の重要な役割です。
ただし、フッ素系でも成分の移動が起こらないわけではありません。
保持の程度は、対象分子や界面活性剤、測定時間などの組み合わせで変わります。
② 界面活性剤と組み合わせ、液滴の安定性を調整できる
液滴を作った後には反応、培養、検出、選別などの工程が続きます。
その間、液滴同士が合体すると、区画ごとに分けた試料が混ざってしまいます。
そこで使われるのがフッ素系オイルと、それに適したフッ素系界面活性剤の組み合わせです。
油と水の境界に働く界面活性剤によって、液滴の合一を抑えます。
ここで求められるのは次の二つの両立です。
- 液滴の安定性を保つこと
- 酵素や細胞を扱える界面を保つこと
液そのものの化学的不活性に加え、界面活性剤を含めた組み合わせが反応・培養への適合性に関わります。
③ 好気性微生物の培養に、酸素を運ぶ機能を使える
微生物を扱う場合には区画を保つことに加え、その中で育つための環境も必要です。
好気性微生物では酸素の供給が増殖や物質生産に関わります。
フッ素系液体の酸素を溶かし込みやすい性質はここでも活用されます。
油に溶けた酸素が油水界面を通って培地へ移動するため、液滴を取り囲む油を、酸素の供給媒体として利用できるのです。
ただし、酸素を溶かせる量と、培地へ届ける速さは別の指標です。
実際の酸素供給は油の流れや外部との気体交換など、培養系の構成にも左右されます。
こうした特性は実際の検出技術や研究で、どのように活用されているのでしょうか。
まずは体外診断薬・検査デバイスの開発に関わる活用例をご紹介します。
体外診断薬・検査デバイスの開発にも!微量な対象を「区画ごと」に読み取る

血液などに含まれるごくわずかな成分や、多数のDNAの中に存在する遺伝子変異を調べたい。
こうした課題に対し、試料を多数の小さな区画へ分けて測定する技術が使われています。
代表的なのがデジタル免疫測定やデジタルPCRです。
区画ごとの反応を蛍光などで読み取る仕組みで、その反応区画を作り、保つためにフッ素系液体が使われています。
| 研究・開発の例 | フッ素系液体の使い方 |
|---|---|
| アルツハイマー病関連成分の測定 | FC-40で微小ウェルの反応液を封止 |
| 白血病関連BCR-ABLの発現解析 | FC-40で微小チャンバーの反応液を区画化 |
アルツハイマー病関連のバイオマーカー測定
アルツハイマー病の研究では病気に関わる成分を血液などから捉える測定技術が開発されています。
その一例がアミロイドβが結合した細胞外小胞(EV)を測定する方法です。
細胞外小胞は膜に包まれた小さな粒子で、細胞から放出されます。
この方法では磁気ビーズで捉えた対象と反応液を微小ウェルへ導入し、フロリナート™ FC-40で封止します。
その後、区画ごとの蛍光を読み取って対象を調べます。
ここでFC-40が担うのは各ウェルの反応液を区切り、測定の場を保つこと。
培養細胞由来の試料やアルツハイマー病モデルマウスの血清を対象とする研究で、封止液として用いられています。
白血病関連の遺伝子発現を調べるデジタルPCR
がん関連の研究では細胞1個ずつの遺伝子発現を調べる技術にもフッ素系液体が使われています。
ここでは特定の遺伝子から作られるRNAの量を調べます。
白血病に関連する融合遺伝子BCR-ABLを対象とした研究では、細胞内のRNAをDNAへ写し取ったcDNAを多数の微小チャンバーに分け、フロリナート™ FC-40で各区画の反応液を分離しています。
その後、PCRを行い、反応した区画を蛍光で読み取ります。
ここでFC-40が担うのは流路に残る余分な反応液を置き換え、各チャンバーの反応液を区切ること。
白血病由来の細胞株を対象とする研究で、細胞ごとのBCR-ABL由来RNAを定量する測定系に用いられています。
微生物スクリーニングにも!小さな液滴で「役立つ菌」を探す

有用な物質を作る菌や、目的の環境で育つ菌を探す微生物スクリーニング。
液滴培養は微生物と培地を小さな区画に分け、多数の培養を並列に進める手法です。
菌をまとめて培養すると、増殖の速い菌の影響で、ほかの菌の性質を捉えにくくなることもあります。
液滴で培養区画を分けることで、それぞれの増殖を追い、菌を個別に回収する流れを組めます。
- 分ける 微生物と培地を小さな液滴に分ける
- 育てる 液滴ごとに培養を進める
- 調べる・回収する 増殖や目的の活性を評価し、菌を回収する
フロリナート™ FC-40で培養区画を作り、評価・回収へつなぐ
特定の物質へ向かって移動する微生物の性質「走化性」を利用した選別装置では、フロリナート™ FC-40を連続相として菌と培地を液滴化しています。
液滴をチューブに集め、装置から取り外して培養する構成です。
培養後の液滴は再びチューブ内を流し、菌が増殖した区画を画像で読み取ってから、寒天培地へ移して回収します。
液滴を小さな培養容器として使い、そのまま観察と菌の回収につなげられるのが特徴です。
好気培養では酸素を届ける役割も
好気性微生物の培養に関わるのがフッ素系液体の酸素を溶かし込みやすい性質。
油に溶けた酸素は油水界面を通って水系の培地へ移動します。
FC-40を使う液滴培養では気体透過性チューブとオイル相を組み合わせて微生物を育てています。
また、液滴培養とは別に、あらかじめ酸素を溶かし込んだFC-40を培養管内の水系培地と接触させ、大腸菌の増殖を促す研究も行われています。
フッ素系液体の用途は培養区画を分けるためのオイルから、酸素を運ぶ媒体にまで広がっています。
FC-40/FC-43だけではない、フッ素系液体の活用事例

分析や培養のオイル相に使われるフッ素系液体は、FC-40/FC-43だけではありません。
フロリナート™のほかのグレードや、HFE(ハイドロフルオロエーテル)系のNovec™シリーズも、微量な試料を扱う研究を支えています。
| 液体・グレード | 研究・分析での事例 |
|---|---|
| フロリナート™ FC-40 | 微小ウェルの封止やPCR反応区画の分離、微生物の液滴培養 |
| フロリナート™ FC-43/FC-3283 | 免疫測定で水系試薬の液滴を運ぶキャリアオイル |
| フロリナート™ FC-70 | 酸素を含ませた油による細菌培養(培養管での研究) |
| Novec™7500 (HFE系) | 液滴PCRや、抗菌物質を作る微生物のスクリーニングに使う連続相 |
例えば、磁気ビーズを使う免疫測定ではFC-43やFC-3283が水系試薬の液滴を運ぶキャリアオイルとして働きます。
Novec™7500も液滴PCRに加え、放線菌を液滴内で培養し、作り出す物質の抗菌活性を調べるスクリーニングに活用されています。
反応液を封じる、試薬を運ぶ、培養の場を保つ。
フッ素系液体は、検出から微生物の探索まで、さまざまな工程に関わる液体です。
マイクロ流路に使うフッ素系液体の代替品も、少量からご相談ください

体外診断薬・検査デバイスの開発や、微生物スクリーニングに使うフッ素系液体。
弊社製品には、こうした分野で複数の採用実績があります。
現在お使いの液からの代替をご検討の方は、ぜひ弊社へご相談ください。

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2025年生産終了、フロリナート™ FC-40の代替に!
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約170℃
まとめ|診断薬開発・微生物研究を支えるフッ素系液体
本記事では、マイクロ流路のオイル相を中心に、体外診断薬・検査デバイスの開発や微生物スクリーニングでのフッ素系液体の活用をご紹介しました。
液滴を取り囲む連続相や、微小ウェルの反応液を区切る封止液。
好気性微生物の培養では、酸素を届ける媒体としても働きます。
フッ素系液体は微量な対象の検出から有用微生物の探索まで、幅広い研究を支える材料です。
こうした技術を継続して活用するには、必要な液を必要な量で調達できることも大切です。
代替品の選択肢を知っておくことは、将来の調達に備える一歩にもなります。
本記事がこれからの研究開発を支える液の選択肢を広げ、代替液の検討を進める一助となれば幸いです。
本日もご覧いただき、誠にありがとうございました!



