
ボッシュプロセス(Boschプロセス)でTSVやMEMSを加工すると、穴の側壁にはフッ素系ポリマーの残渣が残ります。
ドライエッチャーのチャンバーや部品にはデポが少しずつ積み重なって汚れていきます。
これらを放置すれば、配線不良やパーティクルの原因になりかねません。
そのデポ除去を長年支えてきたのが、3M™ Novec™ 7100/7200/7300です。
装置メーカーがメンテナンス用の推奨洗浄液として指定しているケースもあり、現場にとっては「あって当たり前」の液でした。
しかしご存知のように3M社は2025年末をもってNovec™の生産を終了してしまいました。

装置メーカー推奨のNovec™ 7100がもう手に入らない…

7100、7200、7300…それぞれ何が違うのか判断がつかない…

チャンバーの手拭きに使うだけだから、大量には要らない。
必要な分だけ少しずつ買えたらいいのに…
Novec™ 7100/7200/7300がデポ除去に選ばれてきた理由を整理し、代替品の選び方まで解説します。
同じ「フッ素系の洗浄剤」でも、選び方を間違えればデポは落ちません。
代替品選びで失敗しないための判断基準を、順に解説します。
2025年生産終了、Novec™7300の代替品
主成分: 1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン
引火点: なし
沸点: 約101℃
ボッシュプロセスとは?TSV・MEMSの側壁に残る「デポ」の正体

ボッシュプロセスとは…シリコンウエハーを深く垂直に掘るドライエッチング(DRIE:深掘りRIE)の代表的な手法です。
開発したドイツのボッシュ社にちなんで名付けられ、TSV(シリコン貫通電極)やMEMSの微細構造の加工に欠かせない技術となっています。
特徴は、性質の異なる2つの工程を、数秒ごとに何百回も切り替えて繰り返すことです。
| 工程 | 使うガス | 役割 |
|---|---|---|
| エッチング | SF6 六フッ化硫黄 | プラズマでシリコンを削る |
| 保護膜形成 | C4F8 など フルオロカーボン系ガス | 側壁にフッ素系ポリマーの膜を付け、横方向の削れを防ぐ |
削っては守り、削っては守る。
この繰り返しによって、穴は横に広がらず、まっすぐ下へ掘り進みます。
側壁に残るホタテ貝の殻のような波模様(スキャロップ)は、その繰り返しの跡です。
側壁に残る保護膜が「デポ」になる
掘り終えた穴の側壁には、役目を終えた保護膜がフッ素系ポリマーとして残ります。
このように、加工の過程で付着・堆積して残る物質を現場では「デポ」(deposit=堆積物の略)と呼んでいます。
デポを残したままでは、TSVもMEMSも不良の原因に
側壁に残るデポはテフロン(PTFE)によく似た性質を持つフッ素系ポリマーです。
テフロン加工のフライパンが焦げ付きにくいのと同じで、デポが残った表面には次に重ねる膜や部材がくっつきにくくなります。
これが、後の工程で思わぬ不良を招きます。
| デバイス | デポが残ると… |
|---|---|
| TSV シリコン貫通電極 |
|
| MEMS 微小電気機械システム |
|
だからこそ、ボッシュプロセスの後にはデポを確実に取り除く工程が欠かせません。
ボッシュプロセスのデポ除去が難しい理由

テフロンのような膜を深く細い穴の奥から、加工した形を傷めずに取り除く。
言葉にすると簡単ですが、そこには3つの壁があります。
| 壁 | 理由 |
|---|---|
| ①薬品に侵されにくい | フッ素と炭素の結びつきが非常に強く、化学的に安定している。テフロンが焦げ付かないのと同じ性質が、除去のときは裏目に出る |
| ②穴が深く、細い | TSVやMEMSの穴は深さが直径の何倍にもなり、液が奥まで届きにくい |
| ③構造を傷められない | 強い薬品で攻めると、苦労して加工した寸法や表面まで変わってしまう |
従来の除去方法と、その弱点
デポの除去には、これまでさまざまな方法が使われてきました。
どの方法にも一長一短があります。
| 除去方法 | 仕組み | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 酸素プラズマアッシング | プラズマの酸化作用でポリマーを分解する | ポリマーを除去したあと、シリコン表面まで酸化させてしまう |
| 希フッ酸・アミン系の薬液 | 残渣を化学的にエッチングして除去する | 加工寸法の変化や、意図しない腐食のおそれ |
| NMPN-メチル-2-ピロリドン | 溶剤でポリマーを溶かして除去する | 洗浄結果が安定しにくい。毒性への懸念も |
| Novec™ 7100/7200/7300 |
残渣に染み込み、膨らませてはがす | 酸やアルカリを使わず、加工形状を侵しにくい |
Novec™ 7100/7200/7300がデポ除去に選ばれてきた理由

Novec™ 7100/7200/7300はMEMSやメモリ向けの3D半導体パッケージなど、ボッシュプロセス後のデポ除去に長年使われてきました。
浸漬・スプレー・蒸気洗浄と、洗浄方法を選ばないのも特長です。
選ばれてきた理由は、前のセクションで挙げた3つの壁にそれぞれ答えを持っていたことにあります。
| 壁 | Novec™ 7100/7200/7300の答え |
|---|---|
| 壁①薬品に侵されにくい | 力ずくで分解しない フッ素系のデポによくなじんで染み込み、膨らませる(膨潤)。膨らんだデポは側壁への密着が弱まり、はがれていく |
| 壁②穴が深く、細い | 奥まで入り込む 表面張力は水の約5分の1と非常に小さく、粘度も低いため、細く深い穴の奥まで行き渡る |
| 壁③構造を傷められない | シリコンも金属も侵しにくい 酸やアルカリを使わず、水もほとんど含まないため、ウェハーや配線の金属、水に弱い材料を傷めにくい |
| さらに作業のしやすさ | 速く乾き、燃えない 洗浄後すぐに乾き、引火点もないため、IPAやアセトンより火災リスクを抑えられる |
「フッ素系液体なら何でもいい」わけではない
3M™ Novec™ 7100/7200/7300はHFE(ハイドロフルオロエーテル)と呼ばれるフッ素系液体です。
HFEにも多くの種類があり、近年はHFO(ハイドロフルオロオレフィン)と呼ばれる新しい世代のフッ素系溶剤も登場しています。
いずれも「燃えにくい」「乾きが速い」といった共通の特長を持ちますが、フッ素系液体ならどれでもデポを除去できるわけではありません。
同じHFEの仲間であっても同じです。
フッ素系溶剤
7100/7200/7300 デポ除去で長年の実績
現場で長年の使用実績があるのは7100・7200・7300という特定の化学物質です。
代わりの液を探すときは「フッ素系かどうか」ではなく、「同じ化学物質を主成分としているか」を確かめることが欠かせません。
そしてこの3つの液はウェハー上のデポだけでなく、装置の中にたまるデポの洗浄でも活躍してきました。
エッチングチャンバーのデポ洗浄にも

デポがたまるのは、ウェハーの上だけではありません。
エッチング装置の中にも、加工を重ねるたびにデポが積み重なっていきます。
フッ素系ポリマーがチャンバーの内壁や部品にも積み重なる
保護膜をつくるフルオロカーボン系ガスは、ウェハーだけでなく、プラズマが届くあらゆる面にポリマーを付着させます。
ボッシュプロセスの装置に限らず、酸化膜などの誘電体膜をエッチングする装置でも同じです。
チャンバーにたまったデポを放置すると、次のような問題につながります。
| 影響 | 内容 |
|---|---|
| パーティクル異物 | 厚くなったデポが剥がれ落ち、ウェハーを汚す原因になる |
| 加工の不安定化 | 内壁に付いたポリマーが、エッチングの速さを変動させる原因になる |
日々のプラズマクリーニングとメンテナンス時のウェット洗浄
チャンバーのデポは処理の合間にプラズマで取り除く「ドライクリーニング」で日常的に管理されています。
それに加えて、定期メンテナンスでは装置を開け、内壁や部品に残ったデポを液体で洗う「ウェット洗浄」が行われます。
このウェット洗浄でNovec™ 7100/7200/7300は長年、IPAやアセトンに代わる洗浄液として使われてきました。
装置メーカーがメンテナンス用の推奨洗浄液として7100や7200を指定しているケースもあります。
| 洗浄対象 | 方法 | ポイント |
|---|---|---|
| チャンバー内面 | 手拭き | 引火点がなく、作業中の火災リスクを抑えられる |
| 取り外した部品 | 浸漬加温・超音波・煮沸 | 狭い隙間まで液が届く。温度をかけて洗浄できる |
必要なのは「少しだけ」。なのに、少量では手に入らない
チャンバーのウェット洗浄は定期メンテナンスのたびに行う作業です。
手拭きに使う量はわずかで一度に大量の液を消費するものではありません。
ところが、3M社の生産終了後、Novec™の代替品を少量から手軽に入手できる手段は、市場にほとんどありません。

メンテナンスで少し使うだけなのに…まとまった量はいらない…
そんな声を、設備保全の現場から多くいただいています。
弊社のNovec™代替品は100g・1kg・5kgの少量サイズからご購入いただけます。
2025年生産終了、Novec™7300の代替品
主成分: 1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン
引火点: なし
沸点: 約101℃
小さな容器なら装置のそばに置いておけて取り回しも楽です。
使い切れずに余らせる心配もありません。
さらに引火点がなく消防法にも該当しないため、危険物としての保管量を気にせず手元に置けます。
必要なときに、必要な分だけ。
メンテナンスの現場にちょうどいいサイズで、Novec™が担ってきた洗浄を引き継げます。
次のセクションでは、3つのグレードの選び方をご紹介します。
Novec™ 7100/7200/7300の代替品「HFE-7000シリーズ」の選び方

弊社のHFE-7100/HFE-7200/HFE-7300はそれぞれNovec™ 7100/7200/7300と同一の化学物質を主成分とするNovec™シリーズの直接的な代替品です。
MEMS製造をはじめとするデポ除去の現場で採用実績があり、Novec™と同等の性能を発揮します。
装置メーカーの推奨洗浄液としてNovec™ 7100や7200を使ってきた場合も、主成分が同じHFE-7100・HFE-7200を切り替え先としてご検討いただけます。
| 項目 | HFE-7100 | HFE-7200 | HFE-7300 |
|---|---|---|---|
| 代替対象 | Novec™ 7100 | Novec™ 7200 | Novec™ 7300 |
| 重視するポイント | 乾燥性・コスト | バランス | デポの膨潤力 |
| 沸点 | 約59℃ | 約76℃ | 約101℃ |
| 引火点 | なし | なし | なし |
| 乾きやすさ | もっとも速い | 適度 | ゆっくり |
| 加熱して使う場合 | 低沸点で、 加熱上限が低い |
煮沸洗浄に向く | 温度をかけやすい |
| 向いている使い方 | 速く乾かしたい工程 コストを抑えたい場合 |
チャンバーの手拭き 煮沸洗浄 |
落ちにくいデポの 浸漬洗浄 |
| 製品詳細 | 詳細を見る | 詳細を見る | 詳細を見る |
HFE-7100:乾燥性とコストを重視するなら
3製品のなかで沸点がもっとも低く、洗浄後すぐに乾くグレードです。
液コストが最も低く、使用量の多い工程に向いています。
一方で沸点が低いぶん、液を温めて洗浄力を上げる使い方には向きません。
HFE-7200:手拭きと煮沸洗浄に、迷ったらまずこれ!
乾燥の速さと扱いやすさのバランス型です。
乾きが速すぎないため、チャンバーの手拭きで拭きムラを抑えやすく、適度な沸点で煮沸洗浄にも向いています。
手拭き用なら、100g・1kgの小容量で必要な分だけそろえられます。
HFE-7300:落ちにくいデポに!
3製品のなかでもっともデポを膨潤させる力が高いグレードです。
沸点が高く温度をかけやすいため、加温した浸漬洗浄で厚く堆積したデポや落ちにくい残渣に力を発揮します。
2025年生産終了、Novec™7300の代替品
主成分: 1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン
引火点: なし
沸点: 約101℃
よくあるご質問

Q1Novec™ 7100/7200/7300は、もう購入できないのですか?
Q2HFE-7000シリーズとNovec™は同じものですか?
Q3装置メーカーの推奨洗浄液がNovec™ 7100(7200)です。切り替えられますか?
Q4ほかのHFEやHFOで代用できますか?
Q5ボッシュプロセスのデポ除去には、どのグレードが向いていますか?
Q6チャンバーの手拭き洗浄には、どのグレードがよいですか?
Q7少量から購入できますか?
Q8法規制上の扱いはどうなりますか?
まとめ:Novec™が担ってきたデポ除去を、止めずにつなぐ
ボッシュプロセス後の側壁に残るデポも、エッチングチャンバーにたまるデポも、Novec™ 7100/7200/7300が長年担ってきた洗浄です。
フッ素系のデポになじんで膨らませ、細く深い穴の奥まで入り込み、シリコンや金属を侵しにくい。
この性質こそが、現場で選ばれ続けてきた理由でした。
最後に、冒頭の3つのお悩みへの答えをまとめます。
| お悩み | 答え |
|---|---|
| 装置メーカー推奨のNovec™ 7100/7200が手に入らない | 主成分が同じHFE-7100/HFE-7200が切り替え先に。Novec™と同等の性能を発揮します |
| 7100・7200・7300、どれを選べばいいのか | もっとも多く使われているのは7100。手拭き・煮沸洗浄なら7200、さらに除去力を求めるなら7300 |
| チャンバーの手拭き用に、少しだけ欲しい | 100g・1kg・5kgの少量サイズから購入できます |
必要なときに、必要な分だけ。
装置メーカー推奨のNovec™が手に入らずお困りの方も、まずはご相談ください。
100g・1kg・5kgの少量サイズから、現場のデポで実際に洗浄性をお確かめいただけます。
製品に関するご質問・詳細情報は、お気軽に当オンラインストアまでお問い合わせください。
グレード選びや使い方のご相談も、豊富な製品知識と技術力をもって最適な一滴をご提案いたします。
本日もご覧いただき、誠にありがとうございました!


