
サーバー1台あたりの発熱量が、空冷では処理しきれない水準に達しつつあります。
生成AIの学習に使われる高性能な演算装置では、1ラックあたりの消費電力がかつての数倍に達し、風を送るいわゆる「空冷方式」だけでは熱を運びきれなくなってきました。
そこで現実的な選択肢として浮上しているのが、機器そのものを液体に浸けて冷やす液浸冷却です。
ただ、実際に検討を始めた方が最初にぶつかるのが「どの液体を使うのか?」という問題です。
水、炭化水素油、シリコーンオイル、フッ素系…
それぞれに向き不向きがあり、カタログの数値だけを並べても判断がつきません。
データセンターやパソコンの冷却で使われる可能性のある4種類の液体を比較します。
この記事をお読みいただくことで、液浸冷却で用いられる液体の基礎知識が得られます。
そのうえで、なぜフッ素系が二相式で選ばれるのか?単相式ではどう使い分けるのか?を整理します。
単相式循環冷却向き
主成分: 1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)-ペンタン
引火点: なし
沸点: 約101℃
液浸冷却とは?単相式と二相式の違い

液浸冷却は、電子機器を絶縁性のある液体に直接浸けて熱を奪う方式です。
冷やし方によって2つに分かれます。
両者の差は、熱の運び方にあります。
単相式が液体の温度上昇で熱を運ぶのに対し、二相式は気化するときに奪う熱、つまり蒸発潜熱を使います。
同じ量の液体でも、沸騰させたほうが桁違いに多くの熱を運べます。
そして二相式には、もう一つ見逃せない利点があります。
沸騰している間、液の温度は沸点にほぼ張り付きます。
熱が増えても温度が上がるのではなく、沸騰が激しくなる方向に働くため、発熱体の温度が安定しやすくなります。
なぜ水では直接冷やせないのか?

熱を運ぶ性能だけを見れば、水は他を圧倒します。
シリコーンオイルの比熱は「水の約1/3」、熱伝導率は「水の約1/4」。
つまり比熱・熱伝導率とも水が大きく上回ります。
安価で入手性もよく、条件だけを見れば理想的です。
にもかかわらず、水をサーバーに直接かけることはできません。電気を通してしまうからです。
そのため水を使う場合は、コールドプレート方式という形をとります。
金属製の板を発熱体に密着させ、その内部に水を流す。水が電子部品に触れない構造にするわけです。
ここで問題になるのが、熱の通り道が長くなることです。
熱は、異なる材料の境目を通るたびに抵抗を受けます。
コールドプレート方式では、熱伝導材と金属板という2つの層を必ず経由します。
水そのものがどれだけ優秀でも、そこにたどり着くまでに熱が滞ってしまう。
一方、液浸冷却では液体が発熱体に直接触れます。 途中の層がありません。
液体単体の熱伝導率で劣っていても、経路全体で見れば逆転しうる、というのが液浸冷却の考え方です。
もう一点、漏れたときの結果が違います。
水が漏れれば短絡します。絶縁性のある液体であれば、漏れても機器が生き残る可能性があります。
液浸冷却に使われる3種類の液体

直接浸けられる液体、つまり電気を通さない液体は、大きく3種類です。水は比較のために並べています。
| 項目 | 水 | 炭化水素油 | シリコーンオイル | フッ素系 |
|---|---|---|---|---|
| 主な種類 | 純水など | 鉱物油/合成油 | ジメチルポリシロキサン | HFE/PFPE/PFC |
| 電気を通すか | 通す | 通さない | 通さない | 通さない |
| 引火点 | なし | 196〜254℃ | 160〜300℃以上 | なし |
| 消防法 | 非該当 | 第3石油類〜 可燃性液体類 |
第3石油類〜 可燃性液体類 |
非該当 |
| 沸騰冷却 | 不可 | 不可 | 不可 | 可能 |
| 乾燥性 | ー | 乾かない | 乾かない | 乾く |
| コスト | ||||
| 向いている使い方 | コールドプレート方式 (直接浸けない) |
単相式を 低コストで組みたい方 |
高い耐熱性が 求められる場面 |
二相式・単相式 どちらにも対応 |
炭化水素油|低コストで試しやすいが、低粘度化と引火点の両立が課題
- 液が安価で、導入しやすい
- 大気開放のタンクで運用でき、設備が単純
- 単相式での採用実績が多い
- 動粘度が比較的高く、対流が起きにくい
- 粘度を下げていくと、引火点も下がる傾向
- 沸点が高く、二相式には適さない
- 低揮発性のため、引き上げても液が残りやすい
炭化水素系の冷却液には鉱物油や合成油、植物由来油などがあります。
現在の単相式液浸冷却でも広く使われている方式で、比較的シンプルなシステムを構成しやすいのが特徴です。
水を除く冷却液の中で最も安価である点もメリットです。
一方で、冷却性能と消防法への対応を考えるうえで重要になるのが、「粘度」と「引火点」の関係です。
実際にメーカーが公開している同一製品シリーズを比較すると、その違いがよく分かります。
つまり、液体を流れやすくして冷却性能を高めようとすると、引火点が下がり、消防法上の区分が変わる可能性があります。
メーカー各社も低粘度化と高引火点化の両立を技術課題として掲げており、この2つが相反することは業界内で共有された前提だといえます。
シリコーンオイル|耐熱性・安定性に優れるが、接点障害と除去性に注意
- 耐熱性に優れる
- 温度による粘度変化が小さい
- 熱・酸化に対する安定性が高い
- 粘度のグレードが幅広く、用途に合わせて選びやすい
- 動粘度が比較的高く、対流が起きにくい
- 粘度を下げていくと、引火点も下がる傾向
- シリコーンゴムを大きく膨潤させる可能性
- 低分子シロキサンによる接点障害の可能性
- 低揮発性で除去しにくく、引き上げた部品に液が残りやすい
耐熱性に優れ、温度による粘度変化が小さいのが特徴です。
熱や酸化に対する安定性も高く、高温でも分解や変色が起こりにくいとされています。
一方で、液浸冷却に使う場合には確認しておきたい点がいくつかあります。
低分子シロキサンによる接点障害は、電子部品の分野で知られている現象です。
シリコーン由来の成分が接点のまわりに存在すると、開閉時のアーク熱で分解し、接点の表面に絶縁性の被膜が生じることがあります。
液浸冷却で必ず生じるとは限りませんが、接点を持つ機器では確認しておきたい点です。
除去のしにくさは、運用が始まってから効いてきます。
揮発しないため、引き上げた部品には液が残りますし洗うとしてもなかなか大変です。
フッ素系|高コストだが、唯一無二の特性
- 引火点がなく、非危険物
- 動粘度が他の10分の1以下で、対流が起きやすく隙間まで回り込む
- 発熱体の温度域で沸騰し、二相式が組める
- 引き上げれば乾燥し、残渣が残らない
- 液のコストが高い
- シリコーンゴム・一部フッ素系ゴムを膨潤させる可能性
- 密度が大きく、タンクの重量設計に影響する
- 沸点が低いものは、開放系で蒸発対策が必要
先にデメリットを申し上げると、フッ素系はこの4つの中で最も高価です。
また、熱伝導率や質量あたりの比熱も、水や油系より低い部類にあります。
ただし、この2つの数値だけで「冷却性能が低い」と判断することはできません。
冷却性能の見方|カタログ値だけでは決まらない

ここで、液浸冷却の「冷えやすさ」について一つ補足しておきます。
冷却液を比較するとき、目につきやすいのが熱伝導率や比熱です。
この2つだけを見るとフッ素系は水や油系より低く、一見すると冷却には不利に見えます。
しかし、単相式の液浸冷却では、この2つだけで冷却性能は決まりません。
発熱体の周囲で熱を運ぶには、温められた液が移動し、冷たい液と入れ替わる「対流」が必要です。
その起こりやすさには、熱伝導率や比熱だけでなく、粘度・密度・熱膨張係数も関係します。
特にフッ素系の特徴は、非常に粘度が低いことです。
熱伝導率や質量あたりの比熱では不利でも、液が流れやすく、高密度で、温度変化による体積変化も比較的大きいため、自然対流という観点では評価が変わってきます。
データセンター向けハードウェアの標準化団体であるOpen Compute Project(OCP)では、単相液浸冷却の自然対流性能を示す指標としてFOM1(Figure of Merit)を定義しています。
FOM1では、熱伝導率・比熱・密度・熱膨張係数・粘度を組み合わせて、液体が自然対流によってどれだけ熱を逃がしやすいかを評価します。
ここで重要なのは、熱伝導率が高いほど有利、比熱が大きいほど有利、という単純な評価ではないことです。
フッ素系は、熱伝導率と質量あたりの比熱では油系に劣る製品が多い一方、非常に低い粘度と、大きな密度・熱膨張係数がプラスに働きます。
そのため、代表的な低粘度フッ素系冷却液では個別の熱物性では不利に見えても、総合的な評価では油系を上回ります。
つまり、
「フッ素系は熱伝導率が低いから冷えにくい」とカタログ値だけで判断するのは適切ではありません。
さらに二相式ではここに沸騰時の蒸発潜熱という別の熱輸送メカニズムが加わります。
冷却液の性能は一つの物性値ではなく、液体の物性 × 冷却方式 × 装置設計で評価する必要があります。
フッ素系が液浸冷却で選ばれる3つの理由

熱を運ぶ力で油系に劣るわけではないことは、前のセクションでご説明したとおりです。
そのうえで、フッ素系にしかできないことが3つあります。
理由1|引火点がない(非危険物)
前述のとおり、粘度の低さは冷却性能に直結します。
液が動きやすく、細かな隙間まで回り込むからです。
ところが油系では、その粘度を下げようとすると別の問題が起きます。
| 種類 | 動粘度 | 引火点 | 消防法 |
|---|---|---|---|
| 炭化水素油(低粘度品) | 9.19 cSt | 196℃ | 第3石油類 |
| シリコーンオイル(低粘度品) | 10 cSt | 160℃以上 | 第3石油類 |
| フッ素系 | 0.4〜1.7 cSt | なし | 非該当 |
油系は冷却性能を求めて粘度を下げるほど引火点が下がり、消防法の危険物としての保管・取扱いが必要になります。
「冷やしたい」という要求と、扱いやすさが真正面から衝突する構造です。
フッ素系には、このトレードオフがありません。
他系統の10分の1以下という粘度でありながら、引火点がありません。
引火点がないため、消防法の第四類危険物にも指定可燃物の可燃性液体類にも該当しません。
これがフッ素系の一つ目の特徴です。
理由2|沸騰の潜熱を使えるのは、フッ素系だけ
ここまでは、主に液体のまま循環させる単相式冷却の話でした。
二相式では、これらに加えて蒸発潜熱(気化熱)が使えます。
液体が気体に変わるときに奪う熱は、温度を上げて運ぶ熱とは桁が違います。
CPUやGPUは高負荷時に80〜90℃台まで上がりますが、多くの製品では90〜100℃前後で動作を落とす制御が働くため、余裕をみて80℃台に収めたいところです。
フッ素系にはそれよりも低い温度で沸騰するものがあります。
チップの表面が沸点を上回ると液が沸騰し、気化熱として大量の熱を奪います。
沸騰中は液温が沸点付近に保たれるため、CPUやGPUの温度の振れも小さくなります。
一方で油系はCPUやGPUがどれだけ熱くなっても沸騰しません。 二相式そのものが成立しません。
弊社では、YouTubeチャンネル「のすけ【自作PC】」様とのコラボレーションでこの沸騰冷却の性能を実際に検証しています。
気泡が立ち上がって熱を運んでいく様子は、是非一度、下記リンクよりご覧ください。
理由3|メンテナンスで効いてくる「乾く」という性質
見落とされがちですが、運用時の作業性で大きな差になるのが引き上げた後の「乾きやすさ」です。
炭化水素油やシリコーンオイルは室温では簡単には乾きません。
引き上げたサーバーには液が付着したまま残り、表面を拭き取ってもコネクタや基板の隙間、部品内部に入り込んだ液まで完全に除去するのは容易ではありません。
この違いは、実際の運用で次のような場面に現れます。
フッ素系は引き上げれば乾燥します。 残渣が残りにくく、部品をそのまま扱えます。
評価や試作の段階では、装置の出し入れが何度も発生します。
一回ごとに拭き取りや液切れ待ちが必要かどうかで、作業の負担はまったく変わります。
ただし、揮発しやすいことは蒸発しやすいことでもあります。
沸点の低いグレードを大気開放系で使う場合は蒸発対策が必要です。
以上が液浸冷却で高価なフッ素系液体が選ばれる、唯一無二の特徴です。
液浸冷却に使えるフッ素系液体|HFE-7100・HFE-7300・PF-135の選び方

ここまでフッ素系冷却液の特徴を見てきましたが、フッ素系は二相式専用ではありません。
沸点の高いグレードを選べば単相式で循環、低いグレードを選べば沸騰冷却が可能です。
しかも動粘度は他系統の10分の1以下のままなので、ポンプの負荷も抑えられます。
| 製品名 | HFE-7100 | HFE-7300 | PF-135 |
|---|---|---|---|
| 主成分 | HFE | HFE | PFPE |
| 沸点 | 59℃ | 101℃ | 135℃ |
| 引火点 | なし | なし | なし |
| 動粘度(25℃) | 0.51 cSt | 0.70 cSt | 1.00 cSt |
| 比重(25℃) | 1.51 | 1.66 | 1.72 |
| 冷やし方 | 二相式 (沸騰させて冷やす) |
単相式 (循環させて冷やす) |
単相式 (循環させて冷やす) |
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液浸冷却は、サーバーだけのものではありません

液浸冷却というと大規模なデータセンターの話に聞こえますが、発熱するものを液に浸けて冷やすという考え方そのものは他の分野にも応用できます。
実際に弊社にも演算装置の冷却以外の用途でご相談をいただくことがあります。
熱を出す部品があり、それを冷やしたい。
対象がサーバーやパソコンである必要はありません。
「この装置の熱を液に浸けて処理できないか」というアイデアをお持ちであれば是非一度ご相談ください。
まとめ|液浸冷却液は物性・冷却方式・運用性で選ぶ
本記事では液浸冷却に使う液体の選び方について、水・炭化水素油・シリコーンオイル・フッ素系の4種類を比較しながら解説しました。
要点を整理します。
数値を並べるだけでは、答えは出ません。
装置の構造、温度、液に触れる材質、保守の頻度。これらの条件から方式と液体を決めていくことになります。
弊社はフッ素系機能性液体を専門に扱っています。
フッ素系でのご検討でしたら沸点や方式に応じたグレードをご提案いたします。
まずはご相談からでも大歓迎です!
液浸冷却に関するご相談や、お見積りのご依頼はぜひお気軽に弊社お問い合わせ窓口までご連絡ください。
本記事がお客様にとってベストな液浸冷却液選定の一助となれば幸いです。
本日もご覧いただき、誠にありがとうございました!
ご採用の前に必ずご確認ください 本製品をご採用いただく前には、必ずお客様の責任において実際の使用条件(装置、プロセス、温度など)での適合性評価を実施してください。特に、性能・安全性・各種部材との適合性(金属腐食、樹脂・ゴムへの影響など)に問題がないことを十分にご確認いただけますよう、お願い申し上げます。





