
パソコンやサーバーが稼働するたびに生まれる「熱」。
これまで、この熱は冷却ファンやエアコンを使って大気中へ捨てるだけの「厄介者」として扱われてきました 。
しかし、もしこの捨てられている廃熱を高効率な電力として蘇らせることができたらどうでしょうか?
東京科学大学が発表した、
「量子効果による新しいエネルギー回収」の画期的なメカニズムを分かりやすく解説します。
https://www.isct.ac.jp/ja/news/bvgstux5y8z9
※出典:量子の世界がひらく新しいエネルギー回収のかたち(2026.01.16)東京科学大学
2026年1月、東京科学大学(Science Tokyo)の研究チームが量子の世界でこの夢のような技術を実証しました 。
従来の熱力学の常識を覆し、熱が冷え切る前の「特殊な状態」を利用して電気を取り出すというこの発見は、エネルギー効率の限界に挑む全ての技術者や研究者にとって見逃せないニュースと言えるでしょう 。
一方で、未来の技術の実用化を待つだけでなく、AIの進化と共に急増する「目の前の発熱」をどう処理するかという課題も深刻です 。
本記事では、物理学の常識を覆すこの画期的な研究内容を専門用語を噛み砕いて分かりやすく解説します。
目次
なぜ、パソコンの熱は「捨てる」しかなかったのか?

パソコンの裏側が熱くなるように、電子機器は計算や通信のために使ったエネルギーの一部を「熱」として放出しています 。
これを電気に変えて再利用できれば素晴らしいのですが、これまでは「ある壁」が立ちはだかっていました。
「ぬるくなったお風呂」問題(熱平衡の壁)
従来の物理学(熱力学)では、「熱はいずれ均一に広がる」という前提で考えられてきました。
これを「熱平衡状態」と言います 。
少しイメージしてみてください。
熱々のお風呂に水を足してかき混ぜると、やがて全体が「ぬるま湯」になり温度が一定になりますよね?
一度「ぬるま湯(均一な状態)」になってしまうと、そこからまた「熱いお湯」だけを取り出すのは非常に難しくなります。
これまでの技術は、言わば「お風呂全体がぬるくなるのを待ってから、エネルギー回収しようとしていた」ようなものでした。
熱が拡散して均一になってしまうため、回収できる電気が少なくなってしまうのです 。
量子の世界で発見!「熱が広がる前」のチャンス

そこで東京科学大学の研究チームが目をつけたのが、「熱が均一に広がる前(非熱的状態)」の特殊な状態です 。
電子を「一列の行進」にする(朝永・ラッティンジャー液体)
通常、金属の中にある電子は広い広場で子供たちが自由に走り回っているような状態です。
みんながバラバラに動き、ぶつかり合うので持っているエネルギー(熱)もすぐに平均化されてしまいます。
しかし、電子を非常に細い通り道に押し込めると様子が一変します。
電子たちは狭すぎて横に動けず、「一列に並んだ行進」のように集団として連動して動くようになります。
この特殊な状態を「朝永・ラッティンジャー(TL)液体」と呼ぶそうです 。
この「一列の行進」状態では、前の人が元気(高エネルギー)でも前後の人と簡単には混ざり合いません。
つまり、「熱い部分は熱いまま、冷たい部分は冷たいまま」という通常ではありえない状態が維持されやすくなるのです 。
「出来立ての熱」なら、2〜3倍おいしい
研究チームは、この特殊な状態を利用して実験を行いました。
すると、熱が均一に広がってしまった状態(従来の状態)に比べて約2倍〜3倍もの電圧を生み出せることが世界で初めて証明されました 。
例えるなら、料理をお皿に盛って冷めるのを待つのではなく「フライパンから出来立ての熱々の料理を直接受け取る」ようなものです。
熱のエネルギーが拡散して薄まる前に、濃い状態のまま電気として取り出すことができるためこれほど高い効率が出せるというわけです 。
この発見がもたらす未来

この技術が実用化されれば、私たちの身の回りにある「熱」の扱い方が劇的に変わるかもしれません 。
- データセンターや工場: 捨てられていた膨大な排熱を、高効率で電力に戻して再利用する 。
- スマホやPC: 自分の出した熱でバッテリーを充電し、稼働時間を延ばす 。
「熱は捨てるもの」という常識が、「熱は資源である」に変わる日が近づいています。
「熱を電気にする」その第一歩は、熱を効率よく「運ぶ」こと

量子技術による「夢のエネルギー回収」が実現するのは、もう少し先の未来かもしれません。
しかし、その技術を最大限に活かすためには今から取り組まなければならない重要な課題があります。
それは、「発生した熱を、効率よく捕まえて運ぶこと」です。
空冷の限界と「液体」の実力

どれほど優れた発電システムがあっても、熱源(CPUやGPU)から熱をうまく取り出せなければ意味がありません。
これまでのパソコンは、ファンで風を当てて冷やす「空冷」が主流でした。
これは例えるなら、「熱いお味噌汁をフーフーして冷ます」ようなものです。
手軽ですが、パワー(発熱量)が増えすぎると、もうフーフーだけでは追いつきません 。
そこで現在、世界中のデータセンターやスーパーコンピューターで導入が進んでいるのが「フッ素系機能性液体」を使った冷却技術です。
① 沸騰冷却(お湯を沸かす原理で冷やす)

液体が沸騰して気体になるとき、周囲から猛烈な熱を奪います(気化熱)。
「やかんでお湯が沸く」様子を想像してみてください。
水は沸騰して水蒸気になるとき、コンロの火から大量の熱エネルギーを奪って気体になります。
これと同じことが、私たちの体でも起きています。
暑い時に汗をかくと涼しくなるのは、汗(液体)が蒸発して気体になるときに、皮膚から熱を奪い去ってくれるからです。
フッ素系機能性液体は、この現象をPC冷却に応用するための冷媒です。
沸騰冷却PCや液浸冷却PCをご自身で製作されているYouTuber「のすけ【自作PC】」様との実験では、弊社製品「HFE-7100」が3M™Novec™7100と同等の冷却性能を発揮し、高性能CPUを80℃台で安定稼働させました 。
その様子は、関連記事でも詳しく解説しています。
② 液浸冷却(プールに沈めて冷やす)

こちらは、基板ごと絶縁性の液体にドボンと沈めてしまう方法です。液体を循環させて熱を運びます。
弊社のPFシリーズは、この「液浸冷却(単層式)」に適した冷媒です。
単層式液浸冷却の主流のフッ素系機能性液体です。
主成分: パーフルオロポリエーテル
引火点: なし
沸点: 約135℃
まとめ:熱を「捨てる」から「操る」時代へ
東京科学大学の最新研究は、私たちに「廃熱はただのゴミではなく、未利用の資源である」という新しい視点を与えてくれました 。 量子効果を利用し、熱が均一に広がる前の「非熱的状態」を捉えることで、従来の数倍の効率で電気を取り出せる——そんな夢のような技術が、着実に現実へと近づいています 。
一方で、AIの進化によるデータセンターや電子機器の発熱問題は、未来を待たずに解決しなければならない「待ったなし」の課題です 。 将来のエネルギー回収システムを最大限に活かすためにも、まずは現在の冷却技術で熱を確実にコントロールし、効率よく運ぶことが不可欠です。
私たちカネコ化学は、これからも化学の専門知識を活かし、日本のものづくりを足元から支えることで未来のテクノロジーの発展に貢献していきたいと考えています。
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